Neuroscienceへの論文掲載について(nGVS付加時のバランス評価)

佐賀大学の光武翼先生と当研究室の共同研究による,ノイズ前庭電気刺激(nGVS)に関する知見が,学術誌『Neuroscience』に掲載されました.

Tsubasa Mitsutake, Motomichi Sonobe, Effects of different noisy galvanic vestibular stimulation frequencies on postural control responses, Neuroscience, Vol. 597 (2026). DOI: 10.1016/j.neuroscience.2026.01.032

本研究では,異なる周波数の刺激を与えた際の立位バランス応答の違いを詳細に分析しています.機械工学を専門とする当研究室がこの分野に取り組む背景には,我々が提唱するバランス評価手法の妥当性を証明するという意図があります.nGVSによる姿勢の変化は極めて微細ですが,同一被験者内で精密な比較が可能です.この特性は,我々のシステムが「わずかな変化を捉えられる精緻な物差し」であることを客観的に検証するための,優れたベンチマークとなると考えております.

本論文では,nGVSがバランスを向上させる機序として広く議論されてきた「確率共鳴(Stochastic resonance)仮説」の観点から,得られたデータの検討を行いました.この仮説は,身体の神経系が持つ固有の周波数と外部刺激が共鳴することで機能が向上すると説明するものです.我々は,性質の異なる二つの周波数帯(0–100 Hzおよび100–640 Hz)を用いて比較実験を行いました.実験の結果,いずれの周波数帯においても同等の改善効果が確認されました.この知見は,nGVSの効果が特定の周波数への共鳴を主とするものではない可能性を示唆しており,今後の機序解明に向けた新たな議論の材料を提供するものと考えております.

また,計測データの分析により,足元の環境に応じた具体的な応答の違いも明らかになりました.安定した硬い床面では左右方向の低周波な重心変動が抑制される傾向があったのに対し,クッションのような不安定な面上では頭部の回転速度(角速度)の抑制が顕著に見られました.これが前庭機能の改善によるものかは精査する必要がありますが,もしそうであれば立位のバランス特性と前庭機能との因果関係を結びつける重要な知見になるかもしれません.

動的デザイン研究室では,今後も独自の実用かつ精密なバランス計測システムを通じて,複雑な身体制御メカニズムの深い理解と,その知見の社会還元に貢献していきます.