ニュートン力学では,「作用した外力に応じて物体(人間も含みます)の運動が変化する」と捉えることができます(力学の第2法則).また,外力を受けるということは,作用反作用の法則(力学の第3法則)に従ってペアになる物体が存在することになります.立位や歩行においては,人に作用する力は重力(人vs地球)と床反力(人vs床)しかありません.したがって,人の運動を理解するためには
- 重心位置(重心位置は重力の着力点)
- 床反力(力ベクトル,力のモーメントベクトル,着力点)
の計測は重要になります.本記事では,床反力を計測するための力覚センサについて説明します.

ペタペタとシールなど貼って,汚くてすみません.
力を計測するセンサは,力覚センサ,フォースセンサ,ロードセル,フォースプレート(フォースプラットフォーム)などと呼ばれます(これらとは別に,分布荷重が計測できるセンサもありますが,本記事では割愛します).ロードセルは一点での計測,フォースプレートは面での計測を行います.一方,力センサの定義にはあいまいなところがありますので,機能差を認識しにくくなっています.
一般的な力計測の計測原理は,ひずみゲージによるものです.ひずみゲージは数mmのフィルム状であり,これを材料に貼り付けて,力が作用によって変形する材料の伸縮を電気抵抗に変換します.この抵抗の変化をホイートストンブリッジで電圧信号に変換します.ゲージに個体差があるのに加えて,材料への貼り付け具合,電圧を増幅するためのアンプの性能によって,感度の個体差が生じます.また,材料やアンプは含めて温度変化の影響を受けやすい特徴があります(温度補償などの対策はなされています).
ロードセルはボタン型の形状のセンサで,通常は500円玉よりは少し大きい程度の大きさで,厚みは数mm~数cm程度で比較的小さいものが多いです.後述する計測可能な軸方向の数,許容応力,アンプを内蔵しているかどうかに応じて,センサの大きさは変わります.上面の中央部に突起があり,その突起(点)に作用する力を計測をします.計測方法は,押しつけのz軸1方向のみが計測可能な1軸ロードセル(下図左)が一般的ですが,水平方向の力も計測できる3軸ロードセル(下図右)もあります.さらに,より大型化して,力だけでなく3軸まわりの力のモーメントを計測できる6軸力覚センサもあります(この場合は点計測ではなく面計測).いずれの場合でもロードセルの個体差がありますので,計測される電圧信号に校正係数をかけて力に変換するのが一般的です.

点計測ではなく面に作用する力を計測したい場合には,3~4個のロードセルを内蔵した平板の面上に作用する力を計測します.これがフォースプレートになります.このとき,配置するロードセルが上述した1軸か3軸かによって計測できる力の種類が大きく異なります.下図左のように,1軸ロードセルを配置した場合はCOPと鉛直力(z軸)のみが計測できるのに対し,3軸ロードセルを配置した場合はそれらの情報に加えて,水平力(x軸&y軸)と鉛直軸まわりの力のモーメントが計測されます.前者は重心の水平加速度,後者は鉛直軸まわりの旋回運動を議論するうえで貴重な情報になります.

フォースプレートは複数のロードセルを含むために,各ロードセル間の力の干渉が起こります.そのため,フォースプレートメーカは製作した個々のフォースプレートに対して,既知の力を与えて計測データを取得し,校正を行います.装置の製作だけでなく,校正方法も力の計測精度に影響するはずです.また,上述した温度特性により,力の出力の大きさが毎回微妙に変化します.それによって,荷重なしの状態でも力の出力がゼロにならないオフセットが生じるため,計測の開始時にはまずオフセット補正をします.
最後に,我々が提案している安静状態での立位や座位の計測において,フォースプレートを活用する際の注意点を述べます.
- 計測される鉛直力(体重に応じて400N~1kN程度)に対して,水平力はせいぜい20N程度しかありません.このような鉛直力と水平力のスケールの違いにより,水平力の計測精度の確保は技術的に難しくなります.特に,値の小さい水平力は,アンプによる出力増幅に伴って生じる低周波の計測値の変動(ドリフト)を相対的に受けやすくなります.これを抑制するために,計測開始の10~30分前にフォースプレートの電源を入れて装置の内部温度を安定させたり,事後処理として水平力計測値にハイパスフィルタをかけたりする必要があります.なお,歩行計測のように力の作用が一瞬で水平力も大きい場合は,このような心配をする必要はありません.
- 我々は,いくつかの研究において,水平揺動する床面上にフォースプレートを置いて,床反力を計測することを提案しています.このように床面を揺らす場合には,計測板(上蓋)の慣性力(上蓋の質量×支持面の加速度)がフォースプレートの水平力計測値に含まれます.これを除去するために,床面の加速度を計測し,出力された水平力から上蓋の慣性力分を相殺する必要があります.
- フォースプレートの計測板は高剛性で作られていますが,人が乗るとどうしてもたわみます.このような「たわみ」は,力の計測誤差を誘発します.一方,力がかかる位置が計測板の中央付近であれば,たわみによる計測誤差は小さくなります.したがって,安静立位の計測ではできるだけ計測板の中央に立ち,二足で立つ場合は計測板の中央に対して左右対称になるように立つようにすると,計測誤差を減らすことができます.
- 重心動揺計の上にラバーマットを敷き,その上に立ってバランスを評価する方法が広く用いられていますが,ラバーマットの剛性係数や減衰係数がわからないため,その計測値は正確ではないことを理解しておくべきです.ラバーマットを介して計測される水平力(∝重心加速度)は,ほぼ役に立たないと思います.一方,COPについては,一定の精度で得られるのではないかと推測します.私見ですが,ラバーマットを挟む手法は,正確な計測ができずにその妥当性も評価できないため,これが医療系でメジャーな方法になっていることは不思議です.ラバーマットの検査をしたいのであれば,頭部のIMU計測を適用すべきです.